2022/1/12
「北鎮」 ~ 忘れられた北への眼差し
著者の渡辺浩平 北大教授は、敗戦後の混乱に埋もれ、その後の高度経済成長期を経て、日本人が敢えて避けていた感のある戦前・戦中の「近代日本の北方の歴史」に光を当てるべく、この本を上梓したとも言えそうです。
本のサブタイトルにある 「帝国日本の北の記憶」 「北鎮 ― 忘れられた北への眼差し」 にある様に、我々が暮らす北の大地に、かつて厳然として存在した様々な歴史的事柄について、現状を示しながら解りやすく時代の変遷を説き起こして行く内容です。
時代に埋没して、姿を変えて残存していた歴史的な事実が解き明かされて行く過程も興味深く、月寒・札幌第一高校で学んだ 私たちにこそ縁のある一冊と言えるでしょう。
なお、本書のカバーに用いられている写真は、1936年(昭和11年)10月 陸軍特別大演習における月寒の 25連隊内で昭和天皇と師団及び連隊将校士官が一堂に会した記念写真です。(つきさっぷ郷土資料館蔵) ちなみに、この大演習における昭和天皇の行在所、大本営は北海道大学・農学部の建物だったとの事です。
お話しが変わりますが、私は去年の春と秋に 「つきさっぷ郷土資料館」 で 湊副館長から、月寒の明治開拓期から今日に至る歴史的な説明を受けました。
浅学な私は、この時に初めて干城台(かんじょうだい)、衛戍地(えいじゅち)、衛戍病院(えいじゅびょういん)の言葉と意味を学びました。
我らが母校 札幌第一高校は、25連隊の衛戍病院跡地にあり、我々が入学当初に学んだ旧木造校舎は、まさに衛戍病院の建物の再利用だったのです。

本書:はしがきより
この本は近代日本における北方の物語である。
日本が近世から近代へと向かう過程で、北からの脅威が大きな課題だった。
それは、江戸幕府にとっても、また、明治政府にとっても、共通するものだった。
北とは言うまでもなく、ロシアである。
そこから「北鎮」という言葉が生まれる。
北鎮とは、北方の脅威から自らを護る、という意味だ。
北鎮の前線基地は北海道であった。
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